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2024年NISA恒久化(無期限化)&投資枠拡大!改正内容を解説
政府・与党は来年度(令和5年)の税制改正にNISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充を盛り込む方向で調整しています。具体的内容は下記の4点です。
- NISA制度の恒久化
- 投資期間の無期限化
- 非課税投資枠の引き上げ
- 生涯投資枠の拡大
本記事では、NISA制度をおさらいし、NISA恒久化(無期限化) の背景と利用者にとってのメリットを解説します。
目次(クリックで項目へジャンプ)
そもそもNISAとはどんな制度?現行のNISAをおさらい
ここで、NISAとはどんな制度なのか、おさらいしておきましょう。
NISAの最大の特徴は、投資により得た利益が非課税になる点 です。課税口座では利益に対して20%(※2037年まで復興税が加算されて20.315%)課税されますので、例えば10万円の利益が出ても手残りは8万円となるわけですが、NISA口座での運用であれば10万円全額が手元に残ります。
他の取引との損益通算できないというデメリットはありますが、包括的にはお得な制度です。なお、NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」の2種類があり、それぞれ異なる投資法になります。
一般NISA
投資対象 | 株式、投資信託など |
投資上限額 | 年間120万円 |
投資期間 | 最長5年 |
最大投資可能額 | 600万円(120万円x5年) |
なお、年間投資枠を翌年に繰越すことはできません。また、いつでも売却可能ですが、途中売却しても、その分の非課税投資枠は戻りません。
また、5年間の運用終了後は下記のいずれかを選択することになります。
- ①翌年のNISA口座にロールオーバー(非課税期間の延長)
- ②課税口座へ払い出し
- ③非課税期間終了までに売却
①または②を選ぶ場合、取得時の価格ではなく、時価(移管時点の価格)でロールオーバーもしくは、課税口座へ移管されます。なお、ロールオーバーした場合は、翌年の非課税枠を消費しますので、翌年の非課税枠がその分減ります。
つみたてNISA
投資対象 | 投資信託(長期・分散投資に適した一定の要件をクリアした商品のみ) |
投資上限額 | 年間40万円 |
投資期間 | 最長20年 |
最大投資可能額 | 800万円(40万円x20年) |
一般NISAとの違いは、株式の購入はできず、毎月一定額で投資信託を購入する積立型の投資スタイルである点です。こちらもいつでも売却可能ですが、途中売却してもその年の非課税枠が戻らないのは一般NISAと同様です。
このようにNISAは、それぞれの非課税枠内から発生した利益が全額手元に残るという利用者にとってメリットの大きい制度ですが、現在は、非課税で運用できる期間が限定されています。
ついにNISAが恒久化(無期限化)に向けて動き出す
2022年12月、政府・与党が、来年度の税制改革で2024年からのNISA制度を恒久化する方針を固めました。NISA(少額投資非課税制度)の恒久化は、政府が掲げる「資産所得倍増プラン」の柱の一つです。
NISA拡充の背景
NISAの拡充を進める背景には、日本の家計金融資産の伸び率が低いことにあります。
日本では、家計金融資産の50%超が現金・預金で保有されているのに対し、株式や投資信託など投資資産の保有率は15%にとどまっており、家計金融資産は20年前の1.4倍にしかなっていません。一方、欧米の資産保有率は日本と逆で、現金・預金よりも投資資産の保有率が高くなっています。そして実際、この20年間で米国の家計金融資産は3.4倍、英国では2.3倍に増えました。
日本の家計金融資産が伸びないのは、そもそも給与が増えないこともありますが、手持ち資産を投資により積極的に運用している人が少ないことも要因とみられているのです。家計の資産を貯蓄ではなく投資へシフトしてもらうための手段として、NISA利用を促進するため抜本的改革が求められています。
(参照:2022年第2四半期の資金循環(速報)日本銀行調査統計局
)
(参照:財務省 令和5年度税制改正要望 金融庁 1.NISAの抜本的拡充等
)
NISA恒久化によって何が変わる?4つの変更点をチェック
では、具体的に恒久化によって制度のどの部分が変更になるのか、詳しく見ていきましょう。以下の図を参考に解説していきます。
変更点1.投資可能期間が恒久化
まず大きな変化となったのが投資可能期間の恒久化です。現行の制度では、つみたてNISAでも最長で2042年までしか投資ができませんでした。しかし今回の改正で投資期間が恒久化となり、生涯投資枠がいっぱいになるまで、期限の定めなく投資ができる ことになります。
変更点2.非課税期間の無期限化
投資家の意欲を大いに刺激しそうなのが、非課税期間の無期限化です。現行の制度では、一般NISAが5年、つみたてNISAが20年となっていましたが、2024年以降はこれが無期限となります。NISAによって利益が出た場合はいつでも非課税になる ため、投資を行う際は通常の課税口座と比較して圧倒的にお得に投資を続けることができるようになります。
変更点3.年間投資枠の拡大
とくにつみたてNISAを利用している方に朗報になりうるのが、年間投資枠の拡大でしょう。つみたてNISAでは現行の40万円から3倍の120万円に枠が拡大します。これで平均して月に10万円をつみたてNISAに投資できることになり、多くの人にとっては十分な枠になるでしょう。
また、現行の一般NISAの枠にあたる成長投資枠は、120万円(新NISA案では122万円)から240万円に拡大。個別株などで比較的短期でまとまった額を投資したい方にとってはこの枠の拡大も大きなメリットになりそうです。これらにより、新しいNISAは合計で年間360万円の投資が可能になります 。
変更点4.生涯投資枠の拡大
現行の制度では、一般NISAが120万円×5年=600万円、つみたてNISAが40万円×20年=800万円が生涯投資枠でした。これが今回の改正では、合計で1,800万円までの投資が可能になります 。ただし、成長投資枠で1,800万円すべて使うことはできません。成長投資枠で使えるのは1,200万円までで、残りの600万円はつみたて枠で使う必要があります。
一方、1,800万円をつみたて枠だけで使い切ることは可能です。年間360万円(30万円/月)×5年の最短コースで枠を使うもよし、少額で長期運用を目指すもよしです。非課税期間がなくなったことで、「年間の枠を使い切らなければ」というプレッシャーが軽減される効果もありそうです。
売却することで生涯投資枠が復活する
なお、生涯投資枠は買い付け残高で管理されます。運用中の資産を売却して生涯投資枠に余裕ができれば、その分はまた投資できる仕組みです。これは投資家にとってサプライズとも言える朗報です。
【解説】「つみたて枠」と「成長投資枠」の違いは?
新しいNISA制度で出てくる2つの枠は以下の違いがあります。
つみたて枠
長期・積立・分散投資に適した投資信託と上場株式投資信託(ETF)に投資できる投資枠です。個別株には投資できませんが、手数料が抑えられていて運用実績も水準以上の、いわば“政府公認の”銘柄に長期投資できる投資枠です。
成長投資枠
国内外の上場株式なども含め、広く投資が可能な投資枠です。つみたて枠では投資できない銘柄にも投資できる、比較的上級者向けの投資枠と言えます。
NISAの恒久化(無期限化)で得られるメリットとは?
NISAは投資上限額はあるものの投資から得られた運用益や譲渡益に税金がかからないお得な制度です。一部では、NISA制度は余裕資金のある富裕層を優遇する制度ではないかとの批判があります。
今回の恒久化の検討にあたり、富裕層優遇の指摘から、当初は恒久化を「つみたて型」に一本化する案が出ていました。しかしその後、株式など幅広く投資が可能な「一般型」についても恒久化する政府案が税制調査会で受け入れられました。
幅広い層が恩恵を受けられる制度へ
NISA抜本的改革案では、非課税で投資できる期間を無期限とし、投資上限額も引き上げられます。NISAが恒久化されれば、これまでよりも長期間、安定的に非課税で資産運用ができることになるでしょう。投資資金が少ない場合でも、投資期限が撤廃されれば、期間を味方につけることで、少額ずつの投資でも資産を増やすチャンスを得られます。
予定されていた新NISA制度は見直し
ところで、「一般NISA」は2024年に仕組みと投資枠を変更して「新NISA」へ生まれ変わる予定であったことをご存じでしょうか。一般NISAからの主な変更点は、投資枠が2階建てになること。1階部分の投資額が20万円、2階部分が102万円の年間合計122万円が上限投資枠となる予定でした。
1階部分の20万円は安定的な資産形成を目指すためつみたてNISAの対象となっている投資信託の購入に限定されています。また、2階部分の102万円の投資対象は、これまでの一般NISA同様の株式などの運用が可能です。
新NISAは、一般NISAにつみたてNISAを組み込んだような仕様で、仕組みが複雑になりNISA利用のハードルをますます上げてしまうのではないかとの懸念がありました。しかし、今回の改正でNISAの恒久化が実現すると、新NISAは必然的に見直しということになります。
資産を増やすために利用者の意識改革も必要
貯蓄から投資へ家計金融資産をシフトさせるためにNISAの改革・拡充は有効な手段になりそうですが、利用者の意識改革も重要な要素です。たしかに、NISA制度の恒久化 は利用者の利便性を高めますし、制度の簡素化がかなえばNISA利用者の裾野が広がることが期待できます。
しかし、物事にはメリットがあればデメリットが必ずあります。資産を増やすためにNISAを利用し、利益を最大限生み出せるのがNISAのメリットですが、投資である以上、利益が出る保証がないことはデメリットになります。
日本では金融教育の遅れから、分からないからという理由で投資に踏み出せない方も多くいます。制度を拡充しても、利用者の理解がないと前へは進めません。今後は、制度の拡充と並行して、利用者の金融リテラシーを高めていくことも必要と思われます。
(本執筆は2022年12月13日時点の情報に基づいています。)